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親が認知症になると実家は売れなくなる|家族信託という備え方

伊東 孝之

筆者 伊東 孝之

不動産キャリア15年

サラリーマン時代は不動産会社で勤務、独立後は建物そのもののことを学ぶべく、リフォームを主軸に物件に携わって参りました。広く浅くですが、建築に関する知識も有していますので、単純に不動産を右から左に売却するのではなく、付加価値を見出すことに注力しています。

「施設の入居費用のために実家を売りたいのですが、母が認知症で……」このご相談は、当社に持ち込まれる中で最も対応が難しいもののひとつです。判断能力を失った後では、打てる手が限られるからです。

なぜそうなるのか、そして事前に何ができるのかを説明します。

  • なぜ売れなくなるのか
  • 認知症になった後の選択肢は成年後見
  • 判断能力があるうちの備え、家族信託
  • 現実的な進め方
  • まとめ

なぜ売れなくなるのか

不動産の売買契約は法律行為です。意思能力を欠く人がした法律行為は無効になります(民法3条の2)。

「息子が代わりに手続きすれば」と考えられるかもしれませんが、家族だからといって当然に代理権があるわけではありません。 委任状も、本人に判断能力がなければ有効に作れません。

実務上は、決済の場に立ち会う司法書士が本人の意思を確認します。ここで確認が取れなければ、登記が進みません。結果として、本人名義の不動産は事実上凍結されます。問題は、その資産が凍結されても、施設の費用や医療費は出ていくということです。

認知症になった後の選択肢は成年後見

居住用不動産の売却には家庭裁判所の許可が必要

成年後見人が本人の居住用不動産を売却するには、家庭裁判所の許可が必要です(民法859条の3)。売却だけでなく、抵当権の設定、賃貸借契約の締結や解除、建物の取り壊しも許可の対象です。許可なく行った処分は無効になります。

ここでいう「居住用不動産」は、現に住んでいる家に限りません。入院や施設入所の前に住んでいた家や、退院・退所後に戻る可能性がある家も含まれます。実家はほぼこれに当たると考えてください。許可を得るには、売却が本人のために必要であること(施設費用の捻出など)を裁判所に説明します。手続きには時間がかかり、必ず許可されるとも限りません。

後見人への報酬が、亡くなるまで発生し続けます

大阪家庭裁判所が示している報酬のめやすは次のとおりです。

管理する財産の額基本報酬(月額)
1,000万円以下2万円
1,000万円超〜5,000万円以下3〜4万円
5,000万円超5〜6万円

これはあくまで「めやす」で、実際の金額は裁判所が事案に応じて決めます。不動産の売却など特別な行為があった場合は、基本報酬の50%の範囲で付加報酬が加算されることがあります。後見監督人が付く場合は、その報酬も別に発生します。

そして重要なのは、後見はいったん始まると、本人の能力が回復するか、本人が亡くなるまで続くという点です。裁判所も「ご家族の意思や本人の希望でやめることはできません」と明記しています。「不動産を売るために一時的に使う」ということはできません。月3万円としても、10年で360万円です。知らずに始めて驚かれる方が多い部分です。

判断能力があるうちの備え、家族信託

家族信託(民事信託)は、元気なうちに、財産の管理を家族に託しておく契約です。委託者(親)が受託者(子など)に財産の名義を移し、受益者(通常は親自身)のために管理・処分させます。親が受益者であれば、実質的な利益は親に帰属したままなので、設定した時点で贈与税はかかりません。

そして、親が判断能力を失っても、受託者の権限で信託財産の管理や売却を続けられます。 これが最大の利点です。

成年後見家族信託
始められる時期判断能力を失った後判断能力があるうちだけ
居住用不動産の売却家庭裁判所の許可が必要許可は不要(受託者の権限で可能)
継続期間本人が亡くなるまで契約で定めた期間
継続的な費用後見人報酬が毎月発生原則不要(家族が受託者の場合)
対象になる財産本人の全財産信託した財産のみ
本人の身上監護できるできない

家族信託は万能ではありません。 信託していない財産には効きませんし、施設の入居契約や医療の同意といった身上監護はできません。状況によっては、成年後見と併用することもあります。

費用と手続き

項目内容
契約書の作成法律上の義務ではありませんが、金融機関で信託口口座を開設する際に求められることが多く、後々の争いも防げるため、公正証書で作るのが実務上一般的です
公証人手数料財産の価額に応じた区分(1,000万円超3,000万円以下で26,000円など。2025年10月改定)に加え、信託財産1億円以下の場合は13,000円が加算されます
登記委託者から受託者への所有権移転登記と、信託の登記を同時に行います。所有権移転そのものは非課税で、信託の登記に土地は0.3%、建物は0.4%の登録免許税がかかります(土地の軽減措置は2029年3月31日まで)
専門家報酬司法書士や弁護士に組成を依頼する報酬が別途かかります。公的な基準はなく事務所ごとに設定が異なるため、複数から見積もりを取ることをおすすめします

なお、名義を預かる子には、忠実義務、分別管理義務、帳簿の作成義務があります。信託財産と自分の財産を混ぜてはいけません。 「名義を移すだけ」という軽い話ではないことは、家族全員で理解しておく必要があります。

現実的な進め方

すべてのご家庭に家族信託が必要なわけではありません。当社の実感としては、次の順で考えるのが現実的です。

状況考えられる対応
将来、実家を売る可能性があるか誰も住まない見込みなら、対策の必要度が高くなります
判断能力があるうちに売ってしまう施設に入るタイミングで売却すれば、信託も後見も不要です。居住用財産の3,000万円特別控除も、住まなくなってから3年目の年末までなら使えます
すぐには売らないが将来に備えたいこのときに家族信託が効きます
すでに判断能力が不十分成年後見の検討になります

2番目を先に検討する価値は大きいと考えています。信託の組成費用も後見人報酬もかからず、税制上の特例も使えるからです。売る決断ができるなら、それが最もシンプルです。

まとめ

ポイント内容
認知症になると本人名義の不動産は売れなくなります
成年後見で売る場合家庭裁判所の許可が必要。入所前に住んでいた実家も対象です
後見の継続本人が亡くなるまで続き、報酬も発生し続けます
家族信託判断能力があるうちしか使えません。受託者は家裁の許可なく信託財産を売却できます
信託の作り方公正証書で作るのが一般的。登記も必要です
最もシンプルな選択売る予定があるなら、判断能力があるうちに売ってしまうことです

「まだ元気だが、いずれは」という段階でのご相談を歓迎します。売却の判断に必要な現在価値は、無料の査定でお出しできます。信託や後見の実務は、慣れた司法書士をご紹介します。

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この記事の執筆者

伊東 孝之

このブログの担当者 伊東 孝之

◇ 保有資格
宅建士、賃貸不動産管理士、米国不動産経営管理士(CPM)

◇ キャリア:15年

司法書士や税理士といった専門家と密に連携し、法務・税務の両面からバックアップする万全の体制を整えております。無料相談無料査定も承っており、初めてのご売却でも安心してお任せいただけます。地域に深く根ざし、ご紹介を通じて積み上げてきた信頼の実績を糧に、皆様の不動産売却を支える最良のパートナーであり続けます。